2006年 レコーディング日誌 2月号


 
2月5日(日曜日)

 リーダーからの細かいクレームにより、午前中、『僕たちの船出』のミックスダウンをやり直すことに。案の定って感じ。
修正箇所は2箇所。
一つは幸松の[Rec.2]のギターの音質と音量。低音を少し抑えてボリュームを上げて欲しいとのこと。
それともう一点。リーダーと評論家のギター、つまり[Rec.1]と[Rec.3]のギターの幅をもう少し左右に広げて欲しいとのこと。
その指摘箇所を修正して、再度ミックスダウン。
そして、正式版としてCd-Rに焼き付ける。
これで『僕たちの船出』は完成。
仕上がった作品を聴いて、みんなけっこう満足気である。

 昼食は先週と同じく大宮ストアーで調達。メニューもほとんど同じでカップ麺と巻き寿司と惣菜の組み合わせ。大宮ストアーの店員のおばさんに「2週続けてなんて珍しいねえ!」と言われる。
1曲仕上げたという安堵からか、昼食タイムも心持長め。有線放送から流れてくるフォークソングを聴きながら砕けた雰囲気で雑談。お茶も先週の教訓があるので、ちゃんと急須で作って飲む。参考までに、カップ麺やお茶のお湯入れは用務員が担当。

 午後からは気持ちを新たに、2曲目の歌『鈴蘭通り』のレコーディングに入る。
その前に、アレンジをするに当たって、何か参考になる曲はないかと、いろんなフォークソングをみんなで試聴する。
が、結局目的に適った曲が見つからず、行き当たりばったりでレコーディング開始。
ギターのチューニングは例のごとくリーダーが行う。Kヤイリの小振りのギターは慣れていないのでなんだかやりにくそう。
メトロノームをセットする時に、テンポの件で、幸松と他のメンバーの間で意見が合わず少しもめる。が、結局その中間を取って、100で折り合いをつける。今回は仮うたも仮ギターも取らずに始める。


 Rec.1: ギターパート(幸松)。KヤイリRF-90を使用。これはいつも自分が弾いているギターなので僕にはとても弾きやすい。レコーダー側のレベルの調整がうまく行かず取り直ししたが、それでも2〜3回程でクリアー。
 Rec.2: ボーカルパート(幸松)。このパートに関してはホカのメンバーからのクレームが多く、なかなかOKがもらえず、何度も歌い直す。各コーラスの譜割りをそろえるのってけっこう難しい。そのうちに近所の犬までワンワン吼えだすしまつ。止むを得ず一時中断。
「これぞワンコーラス!」なんて冗談を言ってみるがメンバーは誰も笑ってくれず。仕方ない、みんな疲れているのだから。犬が吼えなくなった時を見計らってボーカル取りを再開。リーダーはまだ不満そうだったが僕は強引にOKの自己申告。
 Rec.3: 間奏・後奏のリードギター(幸松)。KヤイリRF-90を使用。リードギターは苦手な分野だが、自分用に簡単にアレンジしたので、思惑通り数回でクリアー。
 Rec.4: ギターパート(幸松)。マーチンD-40使用。このパートは簡単なストロークなので1回でクリアー!となるはずだったが、エンディングの時にタイミング悪く、近所の犬がまた大きく「ワンッ」と吼えたのでNGに。再度取り直し。なんでこうなるの?とぼやきたい心境。でも、取り直しは1回でクリアー。

 結局この日は幸松のパート取りだけで終わる。
 レコーディングの後、リーダーが楠林さんに電話をかけて、ピアノを入れていただけないかと頼んだところ、快く承諾。そしてレコーディング日は2月19日に決まる。
楠林さんが自宅で練習できるように、今日録音した分をミックスダウンして、hp上のメンバー専用ページにアップする。
これからの1週間は、楠林さんとコンタクトを取りながら、ピアノやギターのアレンジを少しずつ煮詰めて行かなくてはならない。
 

2月12日 日曜日


 この日はリーダーと評論家が別の用事があるということで、レコーディングの作業は休む予定にしていたが、用務員がコーラスを取っておきたいと言うので急遽召集。
「じゃあ、ついでにギターも取るか!」ということになり、コーラスの前にもう1パートギター をかぶせることに。
例によって機材のセッティングは全て用務員が行ない、ギターのチューニングはリーダーが担当。

 Rec.5&Rec.6: ギターパート(幸松)。KヤイリRF-90使用。ピアノが入った時のサウンドを考えて、ストロークとフィンガー、二つのパターンで録音しておく。どちらを採用するかはピアノを入れてから実際に全体的なサウンドを聴いて決めようということに。しかし、僕個人的にはストロークの出来具合に不満があるので、なるべくならフィンガーを採用してほしいと思っている。この2パートを録音するのにかなり時間がかかる。僕は改めて自分の腕の未熟さを思い知る。
 Rec.7: コーラスパート(リーダー)。ふと思いついて「よかったらコーラス参加してみない?」とリーダーに持ちかけてみたところ、『僕たちの船出』のコーラスで味を占めたのか、何のためらいもなくOK。「じゃあ」と、3番のサビの部分を、主旋のオクターブ下で歌ってもらうことにする。2〜3回練習しただけでわけなくクリアー。

 ここでリーダーは、「出かけないといけないから」と退席。以後は僕と用務員2人で作業をする。

 Rec.8: コーラス・下のパート(幸松)。本来このパートは用務員に歌ってもらうことになっていたのだが、何度チャレンジしてもうまく音が取れず。とうとう「このフレーズは自分の音域に合わないと言ってリタイヤ。そこで幸松が引き継ぐ。ところが幸松も、自分が考えたフレーズであるにも関わらず、途中1ヵ所どうしても音が取れずに苦戦。10回くらい歌い直して何とかクリアー。どうも今日は調子が乗らない。

 この時点で時計を見ると、午後3時。昼食を取ってなかったことに気づく。しかし、買いに行くのも面倒で、「まあいいか、1食くらい!」と諦め、リーダーが用意してくれていたお茶とコーヒーを2人ですすり、それで当座の飢えをしのぐことにする(ちょっとオーバーかな?)。
お茶タイムは1時間くらい。その間用務員はハードディスクレコーダーのマニュアルを開き、操作法を熱心に勉強している。説明を聞いてもチンプンカンプンの僕は、せめて彼の勉強の邪魔をしないようにと、リーダーがセットしておいてくれた音楽を観賞して過ごす。

 午後4時頃、再びレコーディングの作業に戻る。とは言っても、この日予定していた分の録音はすでに終わっているのでもうほとんどすることはない。そこで、はたしてどんなエフェクターが入っているのか、レコーディングミキサーの機能の中を散策してみる。リバーブ、ディレー、コーラス、ディストーション、コンプレッサー、リミッター、マイクシュミレーター、イコライザーなどの一般的なものから、自信なさそうな歌い方を、自信たっぷりな歌い方に変えるという、エキサイターなんてものまで、種類としてはたくさん組み込まれているが、実際に僕らが使えそうなものはそれほど多くはないようだ。イコライザー以外では、せいぜいリバーブ、コーラス、それにコンプレッサーかリミッターくらいのものだろう。
そういう結論に達したので、散策を終えて、今日の収穫分を含め、これまで取った分を簡単にミックスダウンしてWAVにする。そしてそれを用務員が自宅に持ち帰り、他のメンバーが自分のパソコンで聴けるようにMP3形式に変換してホームページにアップする。

 機材を撤収している時に、何気なくギターをポロンと弾くと、今日歌ったコーラスパートとは違う、別のコーラスフレーズがふっと浮かぶ。「おっ、これはいい!」忘れないうちにと僕はボイスレコーダーを取り出して即メモる。よし、これならわりと音程も取り易そうだ。「来週のレコーディングまでにぜひマスターしておいてね!」と用務員に頼む。
「俺がダメだった時の保険に、幸松ちゃんも一応練習しておいてね」と用務員はいつになく弱気である。まあ、しょうがない。実際難しいのだから。
帰り道、リーダーの家からバス停までの間、ハモリのフレーズを2人で復唱しながら歩く。 これからの1週間も僕と用務員は、頭の中でエンドレスに鳴り続く『鈴蘭通り』のコーラスのフレーズに日々うなされることになるのだろう。もちろん、悪い意味ではなくてだが。
 

2月19日 日曜日

 今日は、楠林さんのキーボードパートと、用務員のコーラスパートを取ることになっている。
9時集合。僕らがリーダー宅(Almanac)に着くと、楠林さんもちょうど到着したばかりらしく、玄関前で一緒になる。
今回はゆっくり雑談を交わしている暇はない。録音機材とキーボードをセッティングして、早速打ち合わせに入る。
ピアノは曲のどの部分から入れるか、どういう風な弾き方をするか、ギター、ボーカルと合わせながら大体のサウンドを作って行く。
決まったら、次に前奏やサビに入る前のフィルイン、1番と2番、2番と3番の継ぎ目のタイミング、エンディングのフレーズなど、細かい部分を打ち合わせる。
「間奏はできればバンドネオンのようなアコーディオン系の音色で弾いてください」と楠林さんに電話でお願いしておいたところ、楠林さんは、本物のアコーディオンを持参。みんな驚く。
実際に音を聴いてリーダーは「これはいいねえ!」と絶賛するが、楠林さんはアコーディオンなんてこれまで全く弾いたことがないという。それでも練習しているうちに何とか形になってきたので、間奏と後奏はシンセではなくアコーディオンで行くことにする。
「これなら街に繰り出してストリートライブができますね。」そう言ってみんなは、ギターとアコーディオンの生楽器のサウンドに拍手を送る。
1時間余り練習したところで、いざ録音。

 Rec.9: ピアノパート(楠林さん)。楠林さんはピアノすごく上手いので、僕らはつい高度な技を要求してしまう。しかも、評価は厳しい。それでも楠林さんは、僕らのリクエストに応じて何度も繰り返し弾いてくれる。さすがは楠林さん、ピアノの音色選びの時間を含め1時間くらいでクリアー。

 ここで時計を見ると12時30分になろうとしていたので、午前のレコーディングはここまでとし、昼食タイムに入る。「腹が減っていないから」という用務員を一人残して、僕ら・4人、楠林さんの車で大塔のジャスコにあるサボテンというトンカツ屋さんに繰り出す。
そう、あのワニ農法談義の舞台となったトンカツ屋さんだ。そこで期間限定のお薦めメニューという「ロースカツのネギ味噌定食」なるものを食べる。これはどうでもよいことだけど恒例なので書いておくが、評論家がお代わりして食べたのは、ご飯3倍と味噌汁3倍。いつもよりはちょっと控え目。
食事を済ませ僕らがAlmanacに戻ってきたのは2時30分頃。予定よりも少し遅れ気味。
僕らが昼食に出ている間に用務員は単独で自分のパートを録音しておく。

 Rec.10: コーラス・真ん中のパート(用務員)。先週のリベンジ。「うまく行った!」とやけに得意気。この1週間ずいぶん練習してきたらしい。ボーカルにつられてしまわないように、メインのギター以外、全ての音をオフにして歌ったのだという。これまで、嫌というほどボーカルを聴いているはずなので、音を消してしまっても譜割やタイミング、音の伸ばし具合は分かるのだろう。
 Rec.11: 間奏、後奏のアコーディオンパート(楠林さん)。アコーディオンという楽器は、音の粒をそろえるのがすごく難しい。蛇腹への力の入れ具合で音が急に大きくなったり、逆に小さくなったりする。楠林さんはその辺りを一番苦労したみたいである。これは評論家が教えてくれたのだがアコーディオン弾きの間では「蛇腹8年」と言われているらしい。横で聴いていて、なんとなく頷ける。何度かやり直して1時間くらいでクリアー。

 この時点で時計を見ると4時。予定していた時間よりも早く録音の作業が終わったので、一騎にミックスダウンまで行なうことにする。5人でヘッドホンをかぶり、それぞれがモニターとなって意見を出しながら音を作って行く。と言っても、ほとんど指示を出すのはリーダーで、ミキサーのつまみを動かすのは僕である。
ヘッドホンは大きく分けて、モニター用と、観賞用の2種類がある。
モニター用は原音を忠実に再生してくれるという特徴を持っている。楽器一つ一つの音がクリアに聴こえるため、演奏の粗なんかもはっきりと目立ってしまう。一般にレコーディング・ミックスダウンの現場で使用されているのはこのタイプのヘッドホンである。
それに対し、観賞用は、耳障りな音を極力カットして聴きやすい音に作り変えて再生してくれるという特徴を持っている。文字通りオーディオの観賞用である。だから、この手のヘッドホンは音質の個体差が大きい。
メンバーの中でモニター用を使っているのがリーダーと僕なので、最終的な判断は僕らに委ねられることになる。2人の意見が折り合ったところでミックスダウン。そして直接CDに焼いて完成。
 先に作った『僕たちの船出』と交互に再生してみる。改めて聴き返してみると、楽器やコーラスのバランスなど、「もう少しこうしておけばよかった!」と思える箇所もあるが、少ない練習でここまでやれたことに一応満足。後は、梅さんがどう思ってくださるかだ。
午後6時、メンバーにバレンタインデーのプレゼントを持ってきてくれた、優しい美代ちゃんを交え、みんなでコーヒーを飲みながらリーダーの奥さんが差し入れてくれたショートケーキを食べる。一つのことをやり遂げた後のおやつはやはり美味しい。
「美代ちゃん、いつも優しい心遣いありがとうね。」

 帰りは楠林さんに車で自宅まで送ってもらう。楠林さんは今夜も昨夜同様、山内の道の駅に車を止めてその中で1泊するのだという。「わあ!たいへんですねえ。」
今回も楠林さんにはずいぶん我がままを言ってしまったが、『鈴蘭通り』はピアノとアコーディオンが入らなかったら、かなり薄っぺらな演奏になっていたに違いない。そう言った意味でも僕らは楠林さんにとても感謝している。
本当にありがとうございました。そして、お疲れ様でした。


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