音楽時代屋・伝説LIVE・梅トリ記念(後編)


 「かちがらすのために」とわざわざ空けてもらったテーブルの一つに僕らが着くと、すかさず梅さんに飲み物のオーダーを尋ねられた。
「じゃあ僕は生ビール」と言いたかったが、数時間後にライブを控えているので、グッと我慢してウーロン茶にした。他の者も、評論家以外はみんな同じものだった。
と書くと、後で評論家からクレームがつきそうなので、正直に告白しておくが、実は生ビールをオーダーしたのは僕である。
ところが、オーダーした後で
「いやっ待てよ。いまビールを飲んだりしてもしも本番で歌詞を忘れるようなことがあったら大変だぞ。やはり俺もウーロン茶にしておけばよかったかな。」
という後悔が襲ってきたので、急遽評論家に頼んで交換してもらったのである。
「飲み物が来たところで乾杯しようか!」
梅さんの音頭で僕らはグラスを合わせた。

 ライブは大瀬良重徳トリオのステージから始まった。生で聴く『やがてラストミュージックが』は最高だった。生意気を言うようだが、僕が知る梅さんのナンバーの中で、一番梅さんの素顔というか、梅さんの生き様が素直に表現されているのがこの作品ではないかと思っている。
藤山俊子さんの洗練されたピアノ、それと大瀬良重徳さんの表現豊かなボーカルとエンディングのハーモニカ。まるで映画のワンシーンを見ているような感動と共感がこの歌にはあった。
 この後、次々に個性豊かな人たちの楽しいステージが繰り広げられて行ったが、その全てをレポートしたのでは限が無いので、と言うか正確に全てを覚えていないので、特に記憶に残っているステージに絞って書きたいと思う。

藤山俊子さん&姫野さん
 出演者リストの姫野という名前を見て、最初あのチューリップの姫野さんと勘違いしてしまった話は有名、でもないか(笑)であるが、とにかく凄腕のギター弾きと聞いて楽しみにしていた。
姫野さんの弾くガットギターの小気味好いリズムと藤山俊子さんの軽やかなピアノがかもし出すジャズっぽいサウンドは聴いていてとても心地良かった。カフェの雰囲気によくマッチしていて、ずっとこのまま聴いていたいと感じた。姫野さんの声もソフトで藤山俊子さんとのハーモニーもなかなか素敵だった。

藤城マンボウさん
 今回もマンボウワールドは健在だった。僕はチューニングの合ってないギターをこれほど違和感なく聴けたことはかつてなかった気がする。
「このチューニングの狂い具合がマンボウさんの歌とすごく合っているよねえ!」
待機室で、本人が聞けば怒るような失礼な感想を僕は思わず口にしてしまった。
これはその時に橋口さんが話してくださったことなのだが、マンボウさんはめったにギターのチューニングなんてしないのだそうだ。それで時々見るにみかねて、楽屋でこっそり他のミュージシャンがマンボウさんのいない間にチューニングしておくこともあるらしく、なんともおもしろい。
僕はマンボウさんの『枕元のパンツ』という歌をとても気に入っている。そのことをメンバーも知っているので、マンボウさんがこの歌を熱唱している時、
「もしマンボウさんのトリビュートアルバムを作ることになったら、おまえこれうたいたいやろ?」
と言われた。
好きだというのと歌いたいと言うのはまた別で、この歌は他の者ではけっして歌えない気がする。というか、ここまで表現できないと思う。それくらいマンボウワールドは超個性的なのである。

阿部礼三さん
 「待ってました〜!」
僕は『桜並木学生通り』という歌が聴きたくて、阿部さんのステージを楽しみにしていた。
今回のステージではカラオケを使っておられたが、そのカラオケはトリビュートアルバムのレコーディングの時に作ったものらしい。ほんのりと柔らかいサウンドのアレンジになっていた。
安部さんはすっごく優しい方なので、声や歌い方にもそのお人柄が滲み出ている。
とても心癒されるステージだった。
 安部さんには、以前ワインバー「田舎」で一緒に飲んだ時、ギターを教えてもらったことがあるので特に親しみを感じていた。
「終わったらギター触らせてくださいね。」
安部さんが数年間タバコを我慢して買ったという本物のロー伝のギター。僕は弾かせてもらいたくて、ライブの途中そう言って約束を取り付けていた。
結局時間がなくて叶わなかったが、それでもギターやレコーディングのことなど、いろいろと話が聞けてとても楽しかった。

橋口ひろすけさん
 「かちがらすさんが"どフォーク"なら私は"くそフォーク"です」
そう自分でおっしゃるとおり、橋口さんのフォークスピリットは素晴らしかった。
生ギター1本とハーモニカという懐かしいスタイル。個性的な歌声と高度なギターテクニック。
僕らがあこがれる、正真正銘のフォークシンガーがそこにはいた。
「わあ、上手いなあ!」
カーターファミリーピッキング奏法でウッディーガスリーの歌を歌い出された時僕らは思わず歓声を上げていた。
この歌はボブディランとか、日本では今は亡き高田渡と言った有名なフォークシンガーがカバーして歌っていたが、まるでその高田渡さんを彷彿とするとても味のある歌声だった。
最後の『ヘイヘイヘイ』の時、ギターを弾き、歌いながら客のいるテーブルの間を通って退場して行く演出などは最高に恰好よかった。
最近はアコースティックギターも、僕を含めほとんどの人がピックアップを付けてラインで繋いでアンプから音を出している。そんな人たちにはけっして真似のできない、生ギターならではのパフォーマンスである。尤も僕などは例えギターがケーブルで繋がれてなくても無理だけど(笑)。
ちなみに、橋口さんの弾かれていたギターは1955年製の小振りのギブソン。ああ、僕も弾かせてもらいたかったなあ。

岡野雄一さん
 岡野さんの長崎弁ソングはいつ聞いても素晴らしい。歌詞、曲、歌い方、どれを取っても他にはない独特の世界がある。
梅さんのラジオ番組、音楽時代屋の「よかよかストリート」で、岡野さんの歌の「おらんごとなったばい どがんしゅう」というフレーズを聴いて以来、僕は岡野ワールドにすっかり魅了されてしまっている。
方言でないと言い表せない気持ち、方言でないと伝えられないメッセージ、そういうのが確かに存在する。
だからこそ、岡野さんの歌はこんなに心に沁みてくるのだ。

橘橋ノ介さん
 酒が入ったりして場がざわついている時に、一言で全員の目あるいは耳をこちらに向かせるのは至難の技である。それを意図も簡単にやってのけるのが橋ノ介さんだ。
橋ノ介さんがしゃべり出すと、会場のみんなが一斉にそちらを注目する。すごいなあと感心した。きっとそういう、人を引き付ける何かオーラみたいなものが橋ノ介さんにはあるのだろう。
今回のライブの取りが「月極マイアミパーキング」という橋ノ介さん率いるロックバンド。
ギンギンのハードロックだったので、歌詞はほとんど聞き取れなかったが、演奏は腹の底にビンビンと響いてきた。ハードロックをこれほど身体が受け入れたのはもしかしたら初めてかもしれない。気がついてみると、僕も立ち上がって無我夢中でリズムに乗って手拍子を打っていた。

 この他にもまだまだ書きたい人はいるが、パソコンに向かう僕の集中力にも限界があるので、それはまた別の機会に回したいと思う。
とにかく5時間という長いはずの時間が、あっという間に過ぎて行った、とても楽しいバラエティーに飛んだ伝説ライブだった。
「音楽は人の心の中を旅して回るんですよ」というようなことを、先日あるラジオの番組の中でシンガーソングライターの伊藤としひろさんがおっしゃっていた。僕も本当にそのとおりだと思う。
今回のライブのテーマが梅トリ記念だったので、梅さんの歌に限って言えば、すでに何人もの心の中を旅してきた歌もあるだろうし、この場所が旅の出発点だという歌もあるだろう。オハナカフェはそれらの歌たちの言わばクロスロードだったのだ。
梅さんの元を飛び立ったこれらのステキナ歌たちは、それを愛するシンガーたちと共に、これからまた新たな旅に出る。そして多くの人たちの心に元気とか優しさとか郷愁とか、そういった諸々のエネルギーをきっと注ぎ込んでくれることだろう。

 最後に自分たちのことを少し書きたい。
演奏、歌の出来はそこそこだったと思う。心配していた『すずらん通り』のエンディングのハーモニカも転調する部分の評論家のギターも、無難にこなしていたように思う。それなのに・・・。
ああ何と言うことだ、ビールを我慢したにも関わらず僕はと言えば『フォーク喫茶』の3番の歌詞を1ヵ所忘れてしまった。厳密には忘れたというよりも、出てこなかったと言う方が正しいかもしれない。やはりこれも歌い込みが足りなかったのだ。
「フォーキーさん、時間はたっぷりあるからゆっくりしゃべっていいよ。」
始める前に梅さんがそのように言ってくださった。今回の出演バンドの中で僕らが一番長く時間をもらっていたような気がする。他のバンドは2曲か3曲だったのに、僕らだけは5曲も演奏させてもらった。他の方々に対して申し訳ないという気持ちもあったが、反面梅さんのご好意が嬉しくもあった。
森永さんは、僕らの演奏が終わったら、楽器を車に積み込んで、「仕事があるから」と帰って行った。ちなみに職場は長崎である。
ところが、ライブの帰りタクシーで長崎駅に着くと、そこに森永さんの姿があった。
「やっぱり心配になって見送りに来たよ!」
僕らの乗る電車の時間を見計らって、忙しい仕事の合間を縫って、わざわざ来てくれたのだ。
「わあ、助かりました。ありがとうございます。」
長崎、何度か来ているとは言え、不慣れな町には違いない。森永さんの出現はその時の僕らにとってどれだけ心強かったか。
それにしても、かちがらすの周りの人たちはみんなどうしてこんなにも優しいのだろうか。

 森永さん、梅さん、「田舎」のジュリさん、阿部さん、千々和さん、PAの田中さんなど、今回もいろんな人たちにお世話になった。その方々に僕がメンバーを代表して心からお礼を言いたい。本当にありがとうございました。
2006年4月16日

 
☆梅沢武秋トリビュートアルバム「TAKEAKI UMEZAWA TRIBUTE 1976-2006」

収録曲(全10曲)
1 やがてラストミュージックが/大瀬良重徳
2 19の頃/sofa
3 葉ざくら/チカ
4 すずらん通り/かちがらす
5 僕たちの船出/かちがらす
6 村まつり/寄川紹子
7 桜並木学生通り/rei
8 君はもう/藤山俊子
9 センス・オブ・ワンダー/田舎ねこねこ団
10 R251/橘 橋ノ介

 価格 2000円
 このCDは、かちがらすの方でも取り扱いさせていただきます。お気軽にCD販売部(担当・横田)までお問い合わせください。

【参考】 かちがらすがこの日演奏した曲目
1. 僕たちのフォーク喫茶
2. 僕たちの船出
3. すずらん通り
4. 平和と平等をあきらめない
5. 遠い世界に


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