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5.10さがストップ!プルサーマル人文字フェスタ(その2) 『平和と平等をあきらめない』と『一本の鉛筆』は、先週の九条フェスタでも演奏したし、練習もちゃんとやってきたので、それなりに自信はある。戸辺ちゃんと僕のハーモニーも回を追うごとに少しずつ息が合ってきていると感じる。あとはマイクに慣れることだけだ。 問題なのは、『緑色の風』。他の曲の練習に時間を取られてしまって、こちらの方は全くと言ってよいほど合わせていない。それに、ライブでも「前回演奏したのは果たして何年前だっただろう?」と考え込んでも答えが思い出せないくらい久しぶりである。それをぶっつけ本番みたいにしてやろうと言うのだからその無謀さには我ながら呆れてしまう。 「戸辺ちゃん、サビの部分を主旋でいいから一緒に歌ってね」と先先週の練習の時に頼んでおいたのに、戸辺ちゃんはというと、本番直前になって慌てて歌詞を書き取っている。まあいいか、元々これは僕がソロでボーカルを取っていたんだから。と自分に言い聞かせながら僕は声出しをして喉を作っていった。 これでまあ何とかなるだろうと見通しが立ってからリーダーに尋ねた。 「例の歌どうする?ほんとうにやるつもり?」 「うん、やるよ!」 しかたない!もうこれはオレも腹を括るしかないな。 数日前、たぶん火曜日だったと思うが、僕のところにリーダーから添付ファイルの付いたメールが送られてきた。それには 「反骨のロック魂を持っていたミュージシャンの追悼と尊敬の意味を込めて、緑色の風の前にこの歌の前半の部分をやってみたいと思うがどうだろうか?」 と書いてあった。 そして、添付ファイルは、忌野清志郎さんの、核を過激な言葉で強烈に非難する内容の替え歌『ラブ・ミー・テンダー』だった。 「その案自体には反対ではないが、この歌と”かちがらす”との言葉のギャップが〜・・・」 「それに、『緑色の風』の方もまだちゃんと仕上がってないし〜・・・」 「だいいち、これからじゃそもそも練習する時間が〜・・・」 こんな一連の消極的な思考の後、まっ、とりあえず忘れたことにして無視しておくか! という結論に達し、返事を出さずに放っておいた。 ところが金曜日、打ち合わせの目的で電話した時にさりげなく尋ねてみると、リーダーはまだ諦めていない風で、 「できればやりたいと思っている。幸松が歌わなければ自分が歌うから、ギターコードを拾って練習ページにアップしてくれないか」 というのである。その熱意には僕も屈服した。 「わかった!そこまで言うならやりましょう!」 ということで、翌日、つまりライブの前日(土曜日)に僕は慌ててコードを拾って、ラララで歌いながらコード説明のMP3ファイルを作成し、リーダーが自宅のパソコンで聴けるようにメンバー専用ページにアップしておいたのだった。 僕自身も、まあコードだけ押さえておけば何とかなるだろうと高を括って、それ以上突っ込んで練習することはしなかった。 「付け焼刃(つけやきば)は剥がれやすい」ということわざがある。それがギター演奏にも当てはまるのかどうかは分からないが、この付け焼刃的な僕のインスタント奏法が文字通り本番ですぐに剥がれて、リーダーを窮地に陥れることになるのである。 「この歌、オレはボーカルに専念するから、ギターは任せるよ!」 と打ち合わせでリーダーが言った。もちろん、それは全然かまわないし、むしろその方が一度も練習をしていない僕らにとっては無難だろう。 段取りが決まり、それから数回『ラブ・ミー・テンダー』から『緑色の風』のイントロに入っていくまでの部分を練習し、一応の仕上げとした。 戸辺ちゃんは、少し離れた場所で一人、自分のパートを繰り返し歌って練習している。 評論家とひろこちゃんは、その間ずっと脇で僕らの練習を黙って聴いてくれていた。 ニャンコ姫がやってきたのは、イベントが間もなく始まるという10時頃だった。皆でアバンセの建物の影からステージの前の芝生の一角えと移動して出番を待つことにした。 ここでも、思いがけない人が僕らを待ってくれていた。ひろこちゃんと同じく、学生時代一緒に”わたぼうしコンサート”の活動をしていた、当時の歌姫(あの頃はまだそんな言い方はされてなかったが)・いづみちゃんである。ひろこちゃんが”かちがらす”の皆が出演するからと声をかけてくれたのだという。 「あとね、トミーも来ることになってるんよ!」 「ありがとうひろこちゃん!何人も声をかけてくれたんやね!」 みんな主婦なのに、日曜日の貴重な休みの時間をわざわざ割いて僕らに会いに来てくれる。旧友ってほんといいもんだなあ!とつくづく思う。 演奏よりも、むしろ彼女たちと再会できたことに対して僕の気持ちは高揚していた気がする。 同時に、こういうことなら、衣装ももう少しちゃんと決めてくるんだったと、出番を待つ間、いつもおしゃれな身形のリーダーの横に立って、僕はそんな場違いなことを考えていた。 ステージ?それに関しては今回はあまり詳しく書かないことにしよう。何せリハーサル無しのぶっつけ本番だったんだから。PAもさぞかしやり辛かったんだろう。後で評論家も言っていたが、フロントのスピーカーから出ている音がかなり小さかったみたいだ。おそらく調整がしにくくて、全体的に音量を絞ってあったのに違いない。 僕のギターもディストーションがかかったように音割れしていたし、ハウリングも起していた。 何せ、かちがらすの場合は、ギター2本と言っても、一本はライン取りで、もう一本はマイクの生取りなのである。慣れないと音量のバランスやイコライジングなど、ミキシングも他のバンドに比べ難しいのだ。 僕はこれまで何度もこういう聞き取りにくいモニターで歌った経験があるので、それほどパニックにはならなかったが、戸辺ちゃんはさぞかし歌いにくく感じているだろうなと演奏しながら心の中で心配していた。でも、僕よりも戸辺ちゃんの方がしっかり歌えていたところをみると、それは僕の単なる杞憂にすぎなかったようだ。 で、問題の『ラブ・ミー・テンダー』だが、これに関しては先程も書いたが、リーダーにはほんと悪いことをしたと思う。原曲をちゃんと聴いてしっかりギターを練習していれば、もっときちんとリズムを刻めただろうし、リーダーが歌いやすいようにさりげなくアルペジオにメロディーを入れることもできただろう。 この歌のアルペジオは、8分の6で刻むことになるので、1拍目と4拍目にしっかりアクセントをつけて弾かないと、ボーカルを取る者は歌いにくい。 それなのに僕は、自信が無かったこともあって、曖昧なアクセントで弾いてしまった。案の定、リーダーはものすごく歌いにくそうだった。おまけに、僕が坦坦と弾くものだから伴奏を見失ってついには暴走してしまった。僕のギターを信頼してくれていたのに、結果として、それを裏切る形となってしまった。 これは別に落ち込んでいるリーダーを慰める為に言う訳ではないが、総合的に見ると、『一本の鉛筆』で自分の声を聞き取れなくてコーラスを途中放棄したり、『ラブ・ミー・テンダー』のギター伴奏をちゃんと弾けなかったり、『緑色の風』でアルペジオをミスタッチしたりした僕の方が、たぶん他のメンバーよりも減点は大きいだろう。 ステージを降りて芝生の木陰の陣地に戻ってくると皆が笑顔で迎えてくれた。いづみちゃんも、久しぶりにかちがらすの歌を聴けて懐かしかったと言ってくれた。そして、戸辺ちゃんが歌った『一本の鉛筆』良い歌だねと。 実を言うと、この『一本の鉛筆』は美空ひばりさんの歌なのである。歌詞に広島の原爆のことが歌われていて、リーダーも戸辺ちゃんも、もちろん僕も、すごく気に入っているので、自分たちのレパートリーに加えて最近ライブでよく演奏させていただいているのだと説明した。 それから、たぶんこの話の発生源はリーダーとひろこちゃんではないかと思うが、来年はかちがらす結成30周年を迎えるので、佐賀で何か記念のライブイベントをしようという企画が持ち上がった。 「うん、やろうやろう!」いづみちゃんもすごく乗り気である。おまけに、実行委員長まで自分が引き受けてくれるという。 「ありがとう!じゃあ、事務局担当はひろこちゃんね。そして、まだ来てないけどトミーには広報を受け持ってもらおうかな。」 そうやってリーダーが役割を振り分ける。 何だかこの乗りって、あの頃と全く同じではないか。僕はまるで20数年前のあの時代にタイムスリップしたような気分だった。 「ねえ、どうせならもう日にちも決めておかない?」 「うん、そうしよう!」 話はトントン拍子に進み、来年、2010年の9月19日の日曜日に行うということで一応決定した。 あの頃の仲間たちを集めて、皆で同窓会みたいな感じでライブをする。想像するだけで楽しくなってくる。 もちろん、その中には今僕らと一緒にかちがらすの活動をしてくれている仲間たち。いづみちゃんと一緒にバンドを組んでいる彼女の仲間たちも含まれるのである。音楽はそういうところから仲間の輪が広がって行くから素晴らしいのだ。 「これから皆で連絡を取り合いながら計画を進めていこうね。」 そう言って、僕ら一人一人と握手を交わしてから、いづみちゃんはカメラマンのご主人を伴って帰って行った。 これはものすごく余談になるが、ひろこちゃんは今朝佐賀駅で、久しぶりに会った僕に「幸松ちゃんは学生時代からすると2倍になったね」と言った。いくら何でも2倍はオーバーだが、あの頃よりも肥大化しているのは紛れも無い事実である。 それに対して、握手したいづみちゃんの手はすごく細くてあの頃とちっとも変わってないように感じた。きっと今も・・・と、この目がまだ少し見えていた頃の、当時の彼女の面影を思い浮かべながら僕は勝手に想像してしまった。 さっ、話を本線に戻そう。ステージでは次々とライブ演奏が行われている。その中には佐世保から来た戸辺ちゃんの知り合いのバンド・オトヒトツもいる。 オトヒトツはギターとジャンベと女性ボーカルの編成で、沖縄風のサウンドを奏でる、とても洗練された素晴らしいバンドだ。 その演奏を聴きながら「ねえ戸辺ちゃん、ジャンベってどんな楽器?」と尋ねると、「口で説明するよりも実際に触った方が分かるよね」と演奏が終わった後、ウタヒトツのジャンベ奏者から実物を借りてきて僕に触らせてくれた。 いつものことだが、戸辺ちゃんはこういうことにとても気の回る人なのだ。ありがとうね、戸辺ちゃん。 お陰で僕は、長いことなぞだったジャンベという楽器について、大きさや形、作り、叩いた時の音色や感触など、詳細に知ることができたのだった。 (その3)に続く 2009年5月19日 |