中川五郎 福岡風太 シルバーツアー2008(その2)


 会場に着いて車から出ると、ギターの弾き語りをしている男性の歌声が耳に飛び込んできた。出演者だろうか、ライブ本番まではまだずいぶん時間があるので練習をしているのかもしれない。上手い、まるでCDを聴いているようだ。
その演奏を聴きながら、僕らは豪太さんに誘導してもらって控え室らしい建物へと入った。
そこは広い休憩所みたいな感じのところで、長テーブルがいくつか並べて置いてある。僕らはそのうちの、入り口に一番近いテーブルを陣取って荷物を下ろした。

 ここで、会場周囲の見取り図を簡単に紹介しておこう。
以下はニャンコ姫に説明してもらったものを僕が文字化したものである。
まず、手前に広場があって、その広場の奥にライブ会場となる"レストランあおぞら"がある。
レストランは横長で、左側が食堂、右側が厨房みたいになっている。
厨房の手前、広場から見ると右手の方に壁を隔てて教室よりもちょっと広いくらいの部屋があって、そこが今回の控え室になっている。
厨房と控え室との間には、直接行き来ができるようにドアが設けてある。
つまり建物自体は一つだが、部屋の配置は、レストランと控え室とがカギ型になっていることになる。
レストランの入り口は、正面を向いていて、控え室の入り口は左側を向いている。
広場は、この建物の庭のような感じで、数個のベンチが控え室の方を向いて並んでいる。
とまあ、こういうレイアウトらしい。

「さあみんな、五郎さんに会いに行くぞ〜」
荷物を置くなり、豪太さんが言った。
五郎さんは、広場のベンチに座って他の人の演奏を聴きながら寛いでおられるらしい。
いよいよかぁ!緊張の瞬間である。
僕らはぞろぞろ連れ立って、豪太さんの後に続き広場に出た。
もうその時は先程の演奏は終わってしまっていた。
「五郎さん、彼らは"かちがらす"と言って、今日一緒に演奏する仲間たちです。みんな五郎さんの大ファンだそうですよ。」
と豪太さんが紹介してくれた。
「よろしくお願いします!」
そう言いながら、リーダー・評論家・ニャンコ姫・戸辺ちゃん・僕、メンバー5人代わる代わる握手をしてもらった。五郎さんは終始にこやかな感じだった。

「ねえ、五郎さんって、すっごくステキな人よ!イメージしてたのとは全然違ってた。」
控え室に戻ってくるなり、戸辺ちゃんが言った。
この台詞はこの後何度も聞くことになるのだが・・・
戸辺ちゃんは自分の頭の中で、もっとヨレヨレのおじさんみたいな感じをイメージしていたらしい。戸辺ちゃんの中のフォークシンガーのイメージっていったい???
まあ、それはさておき・・・

「君たちも広場で歌わない?」
豪太さんが声をかけてきた。
ライブ会場のレストランは営業中でまだ使えないから、みんな広場で練習しているのだという。
「今は誰もやってないから、君たち練習したらいいよ。五郎さんも聴いてくれていることだし。」
「よし、じゃあ『腰まで泥まみれ』を歌おうか!」
リーダーが言った。
「いいじゃんいいじゃん、それやってよ!」
豪太さんが乗ってくる。
「ちょ、ちょっと待って!」
僕は慌てて待ったをかけた。
「いくらなんでも中川五郎さん本人の前で歌うなんて・・・」
恐れ多くて足がすくむ。
「五郎さんの前で歌う機会なんてめったにないよ。いい思い出になるから歌いなよ。」
そんな豪太さんの言葉に同調するように、戸辺ちゃんやニャンコ姫や評論家も「やってやって!」と囃し立てた。
そうこうしているうちに、五郎さんの座っているベンチの前に連れて行かれ、足元にギターケースが運ばれてきた。
「ここまでお膳立てされたらもうやるしかない!」
僕は腹を括ってギターをケースから取り出した。
心なしか足がガクガクしている。
隣でもリーダーがギターの準備をしている。
五郎さんの周りには、スタッフや出演者が集まっていて、その人たちが一斉にこちらを注目しているのが雰囲気で分かる。
僕はギターをかき鳴らし気合を入れて歌い始めた。

 昔僕が優秀な群体の退院だった時
 月夜の晩にルイジアナで演習をした
 隊長は僕らに川を歩いて渡れと言った
 僕らは膝まで泥まみれだが 隊長は言った 進め!

途中、歌詞を間違えそうになりながらも、なんとかフルコーラス歌い終えた。
パチパチと周囲から拍手が返ってくる。
中川五郎さんの前で歌えた喜びと、未熟な演奏をお聞かせしてしまったという恥ずかしさと、どういう風に受け取られただろうという不安感、それらの感情が一度に僕の胸に押し寄せてきた。
「まだ時間があるから、他の曲も練習していいよ。」
豪太さんが言ってくれたので、『約束』『ひまわり咲くふるさと』『平和と平等をあきらめない』の3曲を歌わせてもらった。
「どんな場所でも聴いてくれている人がいる限り全力投球!」を僕はモットーにしているので、例え4曲とは言え、歌い終えた時は、1本ミニライブをこなしたくらいの疲労感と爽快感があった。
参考までに書いておくが、ここでも『平和と平等をあきらめない』の反響は特別だった。この場がフォーク好きの集まりということもあるのだろう。
こういうメッセージをこれからもドンドン発信していってほしい、みたいなことを誰かに言われた。

「みんな、今から食事して!」
そう言って豪太さんが僕らをレストランへ連れて行ってくれた。なんと、ご馳走してくれるそうだ。
やったあ!
ご好意に甘えて、僕らはメニューの中からカレーライスやうどん、天丼など、思い思いに好きなものをオーダーした。
ここのレストランは木をふんだんに使ったログハウス風の建物らしい。触ってみると、確かにテーブルも椅子も丸太でできている。こういうレストランは今時珍しい。奥の方の席は椅子じゃなくて板張りの座敷になっているよと、ニャンコ姫が教えてくれた。
食事を終え、雑談をしながらゆっくりと寛いでいると、広場の方から五郎さんの歌声が聴こえてきた。
「あっ五郎さんだ!聴きに行こう!」
そう言って僕らは席を立った。
レストランのお姉さんたちに「ご馳走さま」と挨拶して広場に出ると、豪太さんがやってきて、僕らを歌っている五郎さんのすぐ傍へと連れて行ってくれた。

その時の位置関係もニャンコ姫に教えてもらったので書いておく。
五郎さんがベンチで歌っていて、同じベンチのすぐ右隣りにリーダーが座っている。五郎さんとリーダーが並んで座っているそのベンチを囲むようにして、少し離れた位置に、立ったりパイプ椅子に腰掛けたりしながらスタッフや出演者の人たちが歌を聴いている。
僕は五郎さんのすぐ後ろに立っていて、評論家は僕の右隣り、つまりリーダーのすぐ後ろに立っている。
戸辺ちゃんとニャンコ姫は、少し離れた場所でスタッフの中に混じって聴いている。

「Eフラットのハーモニカは持ってますか?」
リーダーが五郎さんに尋ねられている。
「いいえ持っていません。dなら持っていますけど。」
とリーダーが答えると、
「じゃあ、dでやりましょう。」
そう言って五郎さんが『雪よ降れ ヒンズークシュの山の上に』という歌を演奏された。リーダーは、控え目ながらも歌の隙間、間奏や後奏にハーモニカを入れていった。
あこがれの五郎さんとのセッションである。
「いったいリーダーは今どんな気持ちでハーモニカを吹いているんだろう?」
そう思いながら僕は演奏を聴いていた。

そのあと、『受験生ブルース』や『おいでよ僕のベッドに』や『イマジン』などの懐かしい歌から、『ビッグスカイ』や『For A Life』などの最近の歌まで、10曲ほどが次々に歌われていった。

「ねえ、川内さん五郎さんの隣で固まってるよ。」
戸辺ちゃんが僕のところにやってきてそっと言った。
「そりゃあそうでしょう!だってあんな傍で聴いてるんですからね。」

戸辺ちゃんとニャンコ姫がパイプ椅子を持ってきてくれたので、僕と評論家も途中からそれに座らせてもらった。
曇っているせいか、8月というのに暑さを感じない。それどころか、風が涼しくてとても心地いい。
そんな中で聴く五郎さんの歌。こういうのを本当の至福の時間と言うのかもしれない。
「こうしていると、気持ち良くてなんだかまどろんでしまいそう!」
僕が言うと、「ほんとよね」と戸辺ちゃんも頷いた。

最後の数曲は、地元のミュージシャン・ボンゴスターさんのジャンベも加わっての演奏となった。楽器は、先程のハーモニカもそうだが、こういう即興でのセッションができるから楽しいのだ。
演奏している五郎さんも、その周囲で聴いている人たちもすごくリラックスしている。
日曜の昼下がり・広場・ベンチ・爽やかな風、そしてギター。
これだけの条件で、PAや電気がなくてもこんなにステキなライブができてしまう。
僕は、改めてギターを含め、アコースティック楽器の魅力を再認識した。

演奏が終わって控え室に戻るなり、リーダーが「梅さんに電話してみようか」と言い出した。
この感動を梅さんと共有したい。そう思ったのだろう。
「いま4時だよ、こんな間際に言っても間に合うようにはたして長崎から来れるかなあ?」
長崎から佐世保まで車を飛ばして1時間半。吉井はそこからさらに30分。
五郎さんのステージは予定では7時過ぎだそうだから、すぐに出発すればなんとかギリギリで間に合うかもしれないけど・・・
こちらで勝手に心配してもしょうがない。まあ、とりあえずしてみようということになり、リーダーが梅さんの携帯番号をプッシュした。
「今夜佐世保の吉井町というところで中川五郎さんのライブがあるんですけど、聴きにきませんか?」
その時ははっきりした返事はもらえなかったようだが、すぐに折り返しの電話がかかってきて、友だち2人を連れて3人で行きますとのことだった。
それには僕も正直驚いた。リーダーと梅さんは、フォークソングという熱い糸で手繰り寄せられた類友なのだ。逆の場合でも、きっとリーダーは足さえ確保できれば、長崎まで飛んで行くだろう。

4時30分、いよいよ、1部のフリーライブが始まる。僕らの出演は2部の有料ライブの方らしいから、出番まではもう少し時間がある。
そこで、サインをしてもらおうということになり、同じ控え室内の、五郎さんの寛いでおられるテーブルへとみんなで押しかけて行った。
その時の様子を詳しく書くとまた長くなるので割愛するが、なかなか楽しかった。
ここでは、評論家の例の名刺が五郎さんに大受けだった。お陰で評論家は、サインをしてもらった後、五郎さんのギター、カナダ製の[Haida Gwai]を弾かせてもらっていた。僕も便乗させてもらったが。

席に戻って出演者用に用意されていたスタッフ手作りの夕食(おにぎりや玉子焼きなど)をいただいて、ギターのチューニングなどをしていると、あっという間に6時の開演の時間がやってきた。
さっ、みんな会場へ移動だ。

(その3)に続く。

2008年9月7日



日誌のページに戻る