エープリルフール

 
4月1日 火曜日 雨のち曇り

 今日民法のラジオを聴いていたら、ある番組の中で「これまでに私がついた最大のうそ」というテーマでリスナーからFAXやメールを募集していた。
 「うそか!、自分ではあまりついた覚えがないが、それはきっと僕が忘れてしまっているだけで、これまでにはずいぶんいろんなうそをついてきたに違いない。
 そこで今回はエープリルフールに因んで、僕も一つ自分のついたうそを告白してみたいと思う。

 あれは宮崎に住んでいる時だった。
フォークデュオ・ふきのとうが宮崎の市民会館でコンサートをするというので、僕は聴きに行きたいという一心で逸速くチケットを購入した。
ところが、よく考えてみるとコンサートの日は仕事が休みではなかったのだ。
当時僕が勤めていた会社は、昼の12時から夜中の12時までが仕事時間で、毎週金曜日が定休日になっていた。
ふきのとうと言えば、僕が高校生の頃から大好きだったグループで、当時は川内などと一緒に、よくギターを弾いて「やさしさとして思い出として」や「風来坊」「思い出通り雨」などを歌ったものだ。
 これはもうなにがなんでも行くしかない。
そこで僕は社長に、「同郷の友人が宮崎に旅行に来ていて、ぜひ僕に会いたいと言っている。だから会って食事をする間、つまり5時から10時くらいの間休ませてください。」と今考えればあまり上手とは言えないうそをついて、時間をもらったのである。
僕は自分で言うのもなんだが、けっこう社長には信頼してもらっていたので、それだけにうそをつくのはとても心苦しかった。
「絶対にうそがばれないようにしなくては」
今までの経験上、こういう時に限って会場でばったり好ましくない人に会ったりとか、会館周辺で会社の人に見られていたりとか、まったく不運としか言いようのない事が起こって、うそは無惨にもばれてしまうケースが多いのだ。
僕は万全をきすために、ジャンバーのエリを立てて、帽子を深めにかぶり、顔が見えないようにマスクをして、バスと徒歩で会場まで行った。
 この時のふきのとうコンサートは、「二人だけのコンサート」と題して、バックバンド無しで行われた。
はっきりは覚えていないが、確か山木さんと細坪さんがギターと時々ヨーロッパの弦楽器を使って演奏していたのではなかったろうか。
本来なら楽しくてしょうがないはずのコンサートが、僕には社長にうそをついて聴きに来ているという後ろめたさがあるせいか、どうしても心の底から楽しむ気にはなれなかった。
 ふきのとうは、ソレカラ1・2年後に解散してしまった。もうあの二人のきれいなハーモニーを生で聴くことはできないのだ。
それを思うと、あの時うそをついてまで聴きに行ったことを、僕はけっして後悔したりはしない。それどころか無理してでも行ってよかったとさえ思う。例えうそをついた代償を人生のどこかで支払わされることになるにしても。
 コンサートが終わって会社に戻った時、社長は僕の架空の友人との再会を心から喜んでくれた。
「よかったねえ、友達と会えて。久しぶりだったのでさぞ話もはずんだだろう?」
その時僕の良心は、前にも増してズキズキと痛んだのであった。

 人は誰でも、自分にとって都合の悪い事は忘れてしまうようにできているらしい。しかし僕はこのうそだけはいつまでも忘れられないだろうと思う。そう、いつまでも。

4月1日

 
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