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かちがらす結成25周年記念ライブ(前編) 11月27日 日曜日 雨のち晴れ ライブ当日。起床は午前8時にと決めて時計のアラームもその時間にセットしていたのだが、コンサートの前の興奮からか、僕ら全員7時過ぎには目が覚めてしまった。 こういう場所では、誰か一人が目覚めるとそれに連動するようにして他の者たちも目を開ける。僕が一番に、続いて評論家、用務員、そして楠林さんと、まるで昆虫がサナギから羽化する時のように何かモゴモゴ言いながら次々に布団から這い出した。 夜中から明け方にかけて激しく降っていた雨も、今はほとんど止んでいるようだ。昨夜の予報では昼頃には晴れると言っていたので、天気に関してはもう心配ないだろう。 「さあて、朝ご飯でも食べましょうか!」 朝食は昨夜寝る前の話し合いで、近くのコンビニのおにぎりとインスタントのカップ味噌汁ということに決定している。 買出しは、「オレが行くよ!」と申し出てくれたので用務員にお願いすることになった。 その時間を利用して僕は自分のギターの弦をニュー弦に張り替えて、プリアンプの電池も昨日買った新しいものと交換した。これでいつかのような、電池切れで音が出ないというようなことはないだろうし、ギターも機嫌よくきれいな音を出してくれるはずである。 弾いている途中で緩まないようにしっかりと弦をペグに巻きつけチューニングをしてから僕はMYギターをケースに収めた。 楠林さんは、その間一人で楽器等の荷物を部屋から運び出し車に積み込んでくれていた。 評論家は起きてからずっと、最近新しく仕入れたという数個の携帯ストラップをどこにどのように取り付けるべきか、ひとりでブツブツ言いながらレイアウトをしきりに摸索していた。 用務員が戻ってきてから僕らは電気ポットでお湯を沸かし、お茶を入れて質素な朝食を取った。それから洗面を済ませステージ衣装に着替え、9時過ぎにホテルを出た。 楠林さんは車で、僕と評論家と用務員は徒歩で会場まで行くことになっている。ホテルから会場のアルカスまでは歩いても3分くらいしかかからない。外に出てみると、今朝方までの雨はどこに行ったのか、すでに青空が覗いていて、ビルの間から時々漏れてくる秋特有の柔らかい日差しが、歩道を歩く僕らを優しく包んでくれているのが分かった。 僕らが会場のアルカスに着いたのは9時30分頃。もうすでにスタッフもぼちぼち集まってきていて、その中にリーダーや戸辺ちゃんや克ちゃんの声も混じっていた。ジョージがやってきたのは僕らの少し後。一際目立つ陽気な声で誰かとしゃべりながら彼は賑やかに入ってきた。 全員そろって荷物も一通り運び入れた時点で、戸辺ちゃんの指揮のもと、スタッフ間の顔合わせと日程説明が行われた。全員自己紹介をして、今日のコンサートの成功を誓い合った。それから慌しく、会場、舞台、音響、受け付け、撮影など、皆それぞれの持ち場へと散って行った。 音響は今回もかちがらすの専属PA係の沖津さんにお願いしてある。ステージでのリハーサルは予定では11時頃からになるだろうとのこと。僕らはステージのPAの準備ができるまで、控え室でギターやマンドリンのチューニングをしたり、一度も練習に参加できなかったジョージと、ボーカルやコーラスのパートを合わせたりして過ごした。 楠林さんは、ステージで今日使わせてもらうことになっているグランドピアノの試奏をしていた。その様子を見に行ってきたリーダーが興奮したような声で言った。 「今日のピアノものすごくいい音してるよ!」 今回は、楠林さんのエレクトリックピアノの機械の調子があまり良くないというので、会場のグランドピアノを借りることになっている。 「やっぱり生のピアノの音はいいなあ!」 リーダーはギターもピアノもアコースティック、つまり生が大好物なのだ。 25周年記念コンサートは2部構成になっている。 1部はかちがらすスタンダードライブで、演奏する曲はほとんどがオリジナル曲。 2部は梅さんとかちがらすのトーク&ライブで、演奏する曲は70年代のフォークソング。 そして再びかちがらすのオリジナルを数曲歌ってエンディングとなる。 どういう曲順で演奏するか、どこでメンバー紹介をするか、僕らは再確認し合った。 「そろそろリハーサルいいですよ!」 声がかかってステージに上がったのは11時30分頃だったと思う。 それから僕らは1時30分過ぎまで2時間余りたっぷりとPAを通してのリハを行った。 リハは先に僕らのオリジナル曲を、後半は梅さんに聴いていただきながら2部のフォークソングをという流れで進めて行った。 これはいつものことなのだが、僕はリハの時からガンガン飛ばして声を出す。歌いながら喉を作っていくタイプなのである。だから歌い込みが足りなかったりすると本番がすごく不安に感じる。 それに対して用務員は、本番の時までに喉をつぶしてしまってはいけないからと、リハではかなり抑え目に歌う。 リハーサルが終わってから控え室に戻った時、僕は梅さんに言われた。 「コーラスの時は少しマイクから離れて歌った方がいいよ。でないと、主旋が負けてしまうから。」 ところが、本番になると形勢は逆転する。用務員は練習の時にセーブしていた分、本番ではものすごい大きな声で力強く歌うので、うっかりしているとこっちが圧倒されてコーラスを外してしまう羽目になる。 この日もそうだった。僕は不覚にも『ひとつぶの涙』でイントロのコーラスの音程を外してしまったのである。 まあ、それは置いといて、僕はリハーサルの時からけっこう気合を入れて歌った。実を言うと、僕がリハで力を抜かないのにはもう一つ理由がある。例え練習であっても真剣に聴いてくれている人がいるからだ。まあ言わば僕のファンサービスみたいなものだろうか。とか何とか言って、実際は単にいいとこ見せたいだけなのかもしれないけど。 評論家は、自分の周りに3本ギターを飾って、曲によってそれらを使い分けていた。 「いいよ今回は、かちがらす単独のコンサートなんだから。ギター、おまえの好きなだけ持って来いよ。」 そうリーダーから言われていたのである。それならと言うことでギブソンのハミングバード(1962年製)、ギブソンJ-50(1962年製)、それとラリビー(ナッシュビル)、この自慢の名器3本を登場させたという訳だ。 この他にもまだ、練習でいつも愛用しているマーチンのD-40というすごいギターも持ってきていたのだが、これはチューニングが間に合わなかったからとの可愛そうな理由で、控え室に待機させられてしまっていたらしい。 それともう一つ、評論家はサウンドミラーという音の反射鏡を前に立ててギターを演奏していた。このサウンドミラー、本来は自分の弾くギターの音を体感するための道具なのだが、今回ハウリング防止の目的で僕が持ってきてほしいと頼んだのである。 実際にハウリングに対してどの程度効かがあったかはわからないけど、評論家はこのミラーのお陰で、自分のギターの音がよく聴こえてとても弾きやすいと喜んでいた。 練習熱心な楠林さんはリハーサルの間、ピアノを弾かなくていい曲の時は、別の場所に移動して、電子ピアノを使って黙々と自分のパートを練習しているらしかった。 ジョージの歌、戸辺ちゃんの歌、一通りリハを行ってから僕らは控え室に戻った。 控え室では、友人、知人が何人も入れ替わり尋ねてきてくれて、テーブルの上には、ありがたいことにその人たちからの差し入れのお菓子や飲み物がたくさん並んだ。 リーダーはどこかの新聞社の取材を受け、いろいろと質問に答えているようだった。 「2部は僕のラジオ番組に君たち・かちがらすがゲストで来ている、そんな感じで気楽にやろうね。」 梅さんとの打ち合わせもそのようにあっさり決まり、後は雑談をしながら和やかに僕らは昼食の弁当をいただいた。 開演の時間が近づいてくるにつれ、さすがに緊張感も高まってくる。 僕は自己紹介の時に何をしゃべろうかと考えている。リーダーは、オープニングで読み上げるという原稿を指でなぞりながら声に出して練習している。 評論家はトイレに通い、ジョージはいつもより無口になっている。用務員と楠林さんの様子はわからないが、おそらくぎりぎりまで自分のパートを復習していることだろう。 開演の数分前、司会進行係の美貴ちゃんが最後の打ち合わせをするためにやってきた。 「まだお客さんが次々に会場に入って来られてますので開演時間を10分程度遅らせたいと思います。」 それと、 「今回のコンサートの収益金を寄付することになっているJENの説明を、開演の前に森永恵さんにしていただきます。」 と、報告してくれた。 そして14時40分、司会の美貴ちゃんの紹介を受けて、150人の暖かい拍手に迎えられて、僕らかちがらすは記念のステージに立ったのである。 後編に続く。 2005年12月7日 |